<健康な高齢者の場合、ワインを飲んでも癌や死亡のリスクが増すことはない>
新しい研究によると少量の飲酒でも死亡リスクは上がると言われているが、それは既に健康や社会経済的なリスクを抱えている高齢者においてのみである
By Kenny Martin, Wine Spectator Aug 14, 2024
数十年にわたる研究により、軽度から中程度の飲酒、特にワインの場合は、様々な健康上の利点につながることがわかっている。一方アルコールの摂取は特定の癌のリスクを高め、過度の飲酒は深刻な健康リスクを引き起こすという強力な科学的証拠もある。
しかし、適度な飲酒が一部の人にとっては中立的または有益である一方、他の人には有害である理由は謎のままだ。新しい研究では、次の二つの差し迫った問題に応えようとしている:
アルコールは高齢者にどのような影響を与えるのか?そして、軽度および中程度の飲酒による健康への影響は、健康な人とすでに健康上の問題を抱えた社会経済的地位の低い人とでは異なるのか?
マドリード自治大学、ハーバード大学、その他の機関の研究者らが実施し、米国医師会雑誌JAMA Network Openで今週発表された研究によると、飲酒によるリスクは、社会経済的地位や健康状態によって異なることがわかった
健康上の問題を抱えていたり経済的に困窮している高齢者は、少量のアルコールを摂取しただけで死亡のリスク、特に癌による死亡のリスクが高まった。しかし、これらの要因を持たない成人は、適度に飲酒しても死亡リスクは増加しなかった。主にワインの飲酒と、食事の時に限った飲酒は、どちらもアルコール関連の健康リスクの低下と関連していた。
アルコールは高齢者にどのような影響を与えるのか?
この研究は健康上の矛盾に迫っている。まず、年齢を重ねるにつれて、飲酒による悪影響に悩まされる可能性が高くなるという側面がある。これは、高齢者はより多くの薬を服用する傾向があり(その中にはアルコールと相性の悪い薬もある)、飲酒によって悪化の可能性のある健康上の問題を抱えている傾向があるからだ。
一方、ある研究では、高齢者は適度な飲酒から最も多くの恩恵を受けることが明らかにされており、特に心臓血管疾患、糖尿病、虚弱、その他の病気の予防に効果があることが示されている。ワインに含まれる化合物は、認知機能の低下や認知症を予防するようだ。高齢者は配偶者や友人と一緒にお酒を飲む時に、アルコールの社会的恩恵を享受できるかもしれない。
新たな研究によると、すでに社会経済的および健康上のリスクを抱える高齢者は飲酒による健康上のメリットを感じておらず、たとえ少量の飲酒であっても健康に悪影響を与えるリスクが高まるという。しかし、より裕福な地域の健康な高齢者の飲酒の場合、こうしたリスクは増加しない。
新しい手法
調査は、英国居住者を対象とした信頼性の高い大規模な公衆衛生調査であるUKバイオバンクから、現在60歳以上の飲酒者13万5000人以上のデータをもとに行われた。飲酒者を1日当たりの平均飲酒量に基づいて比較した。平均飲酒量は、不定期(男性・女性どちらも、ワイングラス約5分の1杯、または5日に1杯相当)、低リスク(男性で最大1.5杯、女性で4分の3杯)、中リスク(男性で最大3杯、女性で1.5杯)、高リスク(男性で3杯以上、女性で1.5杯以上)と定義した。
さらに、摂取したアルコールの種類と食事中に飲酒したかどうかに基づいて、被験者をグループ分けした。摂取したアルコールの 80 パーセント以上が
1 種類の飲料から
だった場合、その人はその飲料を好むと分類された。被験者は、食事中のみ飲酒する人、食事以外でのみ飲酒する人、いつでも飲酒する人の3グループに分けられた。
最後に、健康および社会経済的リスク要因を持つ人と持たない人の比較がなされた。健康関連リスク要因は、糖尿病、心血管疾患、癌など49の一般的な健康問題を対象とした虚弱指数を用いて測定された。社会経済リスクは、英国で一般的に使用されている社会経済的スコア、タウンゼント貧困指数(国勢調査データから得た住宅および自動車の所有率、失業率、過密状態等を考慮している)を使用して、居住地に基づいて分類された。
リスクが最も低いのは食事中のワイン
健康関連および社会経済的リスク要因を持つ人々において、低リスクおよび中リスクの飲酒は、死亡リスク、特に癌による死亡リスクの増加につながっていた。しかし、健康関連および社会経済的リスク要因のない人々では、少量および中程度の飲酒が不定期の飲酒と比較して健康リスクを増加させるというエビデンスはなかった。
さらに、健康リスク、もしくは社会経済的リスク要因を持つワインを好む人が食事中に飲酒すると、死亡リスク、特に癌による死亡リスクが低下した。食事中のみ飲酒する健康上の問題を抱える人の死亡率が7%の減少、食事中のみ飲酒する社会経済的リスク要因を抱える人の死亡率は17%の減少、との効果が見られた。
健康上の問題がなく、ワインを好み、食事中にのみ飲酒する人は、他の飲酒パターンの人に比べてあらゆる原因による死亡リスクが低いことが分かった。さらに、ワインを食事中に摂取すると、あらゆる飲酒者のカテゴリーにおいて、がん、心血管疾患、あらゆる原因によるアルコール関連の死亡リスクが軽減または解消されることが分かった。
なぜ食事中にワインを飲むのがベストなのか?
研究者らは、食事中にワインを飲む方が安全かもしれないのは、健康的なライフスタイルやアルコールの吸収が遅いこと、またワインに多く含まれる非アルコール成分の効果のおかげではないかと推測している。ワインを飲む人は全体的に、飲まない人やビールやスピリッツを主に飲む人よりも健康的な習慣を持っていることが知られている。彼らは飲酒に対して“より節度があり”、夕食の席では自分のペースを守る傾向があり、長期的には飲酒によるリスクが低くなるようだ。
結論はどうだろう?この研究は飲酒全般に健康上の利点があることを示すものではないが、適量のワインを食事と一緒に飲むのが最も安全なアルコール摂取方法であるという考えをしっかりと裏付けている。
研究の長所と限界
すべての観察研究と同様、この新しい研究でも因果関係を立証することはできていない。この研究は必ずしも正確ではないライフスタイルのアンケートに基づいており、アルコール摂取量は研究期間の初めに測定されただけだ。したがって、人々のアルコール消費量の経時的な変化は結果に反映されていない。また、被験者は英国に住んでいて、大部分が白人であったため、結果は他の集団には当てはまらない可能性がある。
この研究にはいくつかの強みがある。性別、民族、喫煙、教育など、多くの交絡因子がコントロールされている。また、平均アルコール摂取量は少ないが、ときどき過度の飲酒をする人を低リスクグループに分類すると結果が歪む可能性があるため、健康に有害な影響を与えると知られている過度の飲酒をする人々も除外した。
多くのアルコールに関する研究では、異なる種類のアルコールや食事と一緒に飲むことの影響は調べられておらず、この研究ではそうした消費習慣に分析の焦点を当てている。
病気による飲酒中止の影響の回避
飲酒と健康上の利点を関連付ける研究では、飲酒者と非飲酒者を比較するのが一般的だ。一部の研究者、特に飲酒量はどの程度でも安全ではないと主張する研究者は、“病気による飲酒中止者の仮説”と呼ばれるものによってデータを歪める結果になると主張している。この仮説は、飲酒しない人の多くは、実際にはかつて飲酒していたが病気になり飲酒をやめた人々である、とするものである。その比較によって、現在飲酒している人は実際よりも健康に見える、という考えが広まっている。そのため研究者らは、飲酒者同士を同じ条件で比較することで、潜在的な歪みを避けたいと考えた。
しかし、過去の多くの研究では、かつて飲酒をしていた人や特定の健康状態にある人を非飲酒者のデータセットから除外することで、病気による飲酒中止の影響を最小限に抑えようとしていた。専門家の間では、病気による飲酒中止の影響が実際にどれほど重大なのかという点についても意見が分かれている。
この研究は、新しい統計手法がアルコールと健康の関連性をいかに変えるかを示す、興味深い一例である。しかし、アルコールのリスクやメリットの具体的な証明は、科学的なゴールドスタンダードである比較試験に依存しており、今のところ難しいとされている。